スイスに行きたいと思いはじめたのは小学生の時からだ。叔父からもらった世界のスキー場を紹介した本の中に、ツェルマットの記事があった。写真も掲載されたそのページの、まさに欧州という町並みと、スキー場の雄大さに魅了されたのだった。その時はまだ、マッターホルンという山の存在を知らなかった。    大人になってからこの山を知り、その山容に圧倒されスイスに行きたいという願望は更に高まった。願望は高まってもそうそう行ける場所ではない。夢を抱いたまま何年も過ぎ、それに伴い自分の体力も衰えていった。山頂に立つつもりはないけれど、生のマッターホルンを眺めたい。行くなら今だ! とこの年ついに決行したのだった。
行くと決めたは良いけれど、さて時期をいつにするかで迷った。スキーをするつもりはないけれど(スキーをやらなくなってもう何年にもなる)、雪化粧した山も見たかった。けれど寒いのは苦手なので冬はパス。では初冠雪後の秋にしようかとも考えたが、その時期は天候が安定しないという。せっかく行って山が望めなければ意味が無い。ということで消去法から夏に行くことにしたのだった。花にはそれほど興味は無いけど、一斉に花が咲き乱れる時期でもあるというし。
どのような経路で向かったかというと、羽田空港発の深夜便でドイツ・フランクフルトへ。飛行時間は約12時間、時差はマイナス7時間。到着はその日の朝7時だった。 
  フランクフルトで再び飛行機乗り換えなんだけど、ここの通関に時間がかかった。作業スピードがとにかく遅い。ドイツ人はテキパキ作業するイメージがあったんだがなぁ…。やきもきしながら乗り継ぎ便に。
フランクフルトからスイス・チューリッヒまでの飛行時間は1時間ほど。しかし初日の滞在先グリンデルワルドまでは、チューリッヒから電車を乗り継ぎ3時間ちょっとかかる。
空港を出て真っ直ぐ駅へ。自信が無いので念のため案内所で乗るホームを確認する。チューリッヒ空港駅からベルンに行き、ベルンで乗り換え。ベルンからインターラーケン・オストまで行き再び乗り換え。
 
インターラーケン・オストまでは2階席もある特急電車だが、ここからはローカル電車だ。スピードも遅くて景色を眺めるのはちょうど良い。山もだんだん深くなってくる。
電車のチケット(周遊券のようなフリーチケット)は既に日本で入手済みだった。これがビックリするほど高い。3回(3日)自由に国内何処までも乗れる1等チケットを買い求めたんだけど、一人370スイスフラン(Sfr)。この時(2017年7月時点)の為替レートで約4万3300円! スイスは物価が高いとは聞いていたけど、イメージ的には日本の3倍だった。小ボトルのミネラルウォーターを買ったら300円以上した(その後は全てスーパーで買った。少し安い)。
  
荷物ゴロゴロしながらの乗り換えで座れないのは困るから一等チケットを買ったけど、一等席はいつ乗ってもどの電車もガラガラだった。また、このチケットがあればその後のゴンドラや登山電車、ロープウェイなども割引になる。
特急電車は乗り心地も良く、2階席もあり車内販売もある。席まで食事のオーダーを取りに来る列車もあったけど、車内で料理注文したらビックリするような値段なんだろうと注文しなかった。だけど、珈琲くらい頼んでみれば良かったと帰国してからちょっと後悔。
今回はネットで調べて全て個人手配にした。電車移動の乗り継ぎも、日本の乗り換え案内のようなサイトがあって直ぐ調べられる。
 
チューリッヒからグリンデルワルドまでは3時間とちょっと、そしてその後に滞在したツェルマットまではグリンデルワルドから2時間40分ほどかかるのだが、車窓からの景色が素晴らしいので飽きることがなかった。
グリンデルワルドからツェルマットまでの行き方を記しておくと、グリンデルワルド→インターラーケン・オスト→スピエッズ→ヴィスプ→ツェルマット、となる。乗り換え4回もしなくちゃならんかった。(乗り換え鉄道マップはコチラから)。
今回はとにかく山を見たかったので、グリンデルワルドもツェルマットも部屋から山が望めることを条件にホテルを選んだ。
 
グリンデルワルドは駅のホームに隣接するDerby Swiss Quality Hotelを、ツェルマットはHotel Couronne Superiorを選んだ。共に大正解。部屋のベランダからそれぞれアイガー、マッターホルンを望むことが出来た。ツェルマットのホテル・クロンヌは3階の部屋だったけれど、4階の部屋を確保出来たらベストだったと思う。
話が先に飛んでしまった。グリンデルワルドに戻す。グリンデルワルドに到着したのがちょうどお昼。チェックインもまだ出来なかったので荷物を預けて、まずは腹ごしらえ。駅隣りのホテルなので食事場所には事欠かない。
 
昼食後、翌日トレッキングのガイドをお願いしている観光案内所に行く。日本人経営なので日本語でOK!
翌日のトレッキング・コースをどうするか決めてから、グリンデルワルドでのバス発着所や時刻、そしてレストラン情報などなど教えてもらった。スイスでの行動全般が、ここで情報を得たことでとても楽になった。
到着した日は軽く町中散策……、をしたのだが町自体がアップダウンがキツく気温も高くて汗だくになった。グリンデルワルドで標高1000mを超えているのだが、この日の気温は30℃近かったと思う。
 
その翌日は若いガイド君の案内で待望のトレッキング。バスで町外れのグルントまで行き、ロープウェイを使ってメンリッヒェン(2230m)へ。そこからクライネ・シャイデックまで歩く。クライネ・シャイデックでガイド君と別れ、午後からユングフラウ鉄道でユングフラウ・ヨッホまで行くことにした。ここクライネ・シャイデックの名物昼食が、くり抜いたパンにスープが入った変わりもの。名前、忘れたけど美味しかった。お昼を食べてユングフラウ・ヨッホに上がる。
ユングフラウ・ヨッホは展望台で標高3571m。そこからアレッチ氷河、ユングフラウ4151m)、メンヒ(4017m)、フォアアルペン地方、ヴォージュ山脈(仏)などを望むことが出来る。
 
スイス滞在中は運良く全て晴天で、この日も最高の天気のもと、最高の眺望を堪能した。しかし7月とはいえ標高3千㍍を越えるので気温は0℃前後。しかも急激に高度を稼いだせいで電車を降りたら頭痛と吐き気が襲ってきた。高山病だ。少し下れば治るだろうと考えているうちに、15分ほどしたら治ってしまった。せっかく登ったのだが、人が多いので早々に退散。再びクライネ・シャイデックまで戻り、そこからアルビグレンまで歩く。右手にアイガー北壁を見上げながら2時間弱ほどのハイク。途中、カウベルの音がだんだん近づいてくる。牧場を横切らせて頂き、アルビグレン駅でヴァンゲルンアルプ鉄道に乗りグリンデルワルドに戻った(コース図)。  
翌日はツェルマットへの移動日だが、夕方に到着すれば良いので14時過ぎの列車に乗ることにして、午前中ちょと歩くことにした。朝7時40分始発のバスに乗り終点のグロスシャイデックまで行き(約30分)、そこからアップダウンのあるコースを歩き、フィルストからゴンドラに乗ってグリンデルワルドに降りてくることにした。2時間30分ほどのコースなので、グリンデルワルドでゆっくり昼食も摂れる。
この日も天気は良かったのだけど、バスを降りたら濃霧が出迎えてくれた。道はしっかりしてるので心配は無いけど、標識を見失う可能性がある。別れ道では何度か標識と地図を見比べることになった。
 
このコースはヴェッターホルンの圧倒的な壁を眺めながら、牧場の私道を歩くようなコース。途中で牛やヒツジ、ヤギなどに出会う。かみさんはムース(ヘラジカ)のようなシカが走り逃げるのを見たらしい。私はその時、花を撮影していて遅れていたのだった。見たかったなぁ。ちなみに牛の首にぶら下がるカウベル。けっこう大きくて、その音もカランコロンとはほど遠く、ガランゴロンとけたたましい。
フィルスト周辺は、ハンググライダーがたくさん飛んでいた。ここはマーモットの生息地でもあるらしいが会えなかった。マーモットには前日のメンリッヘン・ロープウェイの中から会えた。
食事のことも書いておこう。グリンデルワルドでは宿泊したスイス・クォリティ・ホテルのレストランで夕食にした。ディナー初日でもあるので、当然チーズ・フォンデュ。知らなかったのだけどフォンデュというのはチーズだと出てくるのはパンだけなのね。ソーセージとか肉とかは無いのか?と聞いたら「それはオイルフォンデュだ」と言われた。チーズフォンデュのパン自体はさほど美味しくはないのだけれど、チーズが絶品の美味しさで感動。さすがスイス。チーズはどの種類も美味しかった。
トレッキング後、駅前のスナックで昼食(ハンバーガー食べたけどこれもメチャウマ!)食べてツェルマットへ向かう。コースは先に書いた通り。
 
さて乗り継ぎ4回、2時間40分ほどの列車移動を終えてツェルマットに到着。スイスフランが少なくなってきたのでまずは駅隣接の換金店へ。宿泊するホテルまでは徒歩10分ほどと調べてあったがしかしこの10分、道がブロックの埋め込み道路なのでキャリーバッグをゴロゴロして歩くのが辛い。しかしその町並みは、小学生の時に写真で見たイメージそのままだった。
ホテルのベランダからは眼前にマッターホルンが。見下ろすとそこには橋があって、何でも日本人橋という別名がついているらしい。ツェルマットの町で一番綺麗にマッターホルンが見える場所なのだ。連日、早朝や夕刻は、朝焼けや夕陽に燃える山容を見ようと人だかりだった。
 
ツェルマットの標高は1,600mちょっと。グリンデルワルドとわずか600mほどの違いなのだが、こちらはグンッと気温が下がる。訪れていた7月、日中でも20~25℃ほどだった。朝晩は10℃未満と、かなり冷え込む。
到着したその日の夕食は、評判だというラム肉料理店(Schaferstube)に出向く。早い時間に行ったので入れたが、予約しないと普段は無理のようだ。評判通りで今まで食べたラム料理で1番だった。
翌日、かみさんが調子悪いと言う。う~む、困ったド~スル?と思案していたら、独りで行って来いと言う。一緒にホテルにいても仕方ないので、かみさん置いて独りで歩くことにした。
向かった先はマッターホルン・グレッシャーパラダイス。ホテル目の前の川沿いの道を上流へ歩き、ロープウェイでトロッケナーシュテック(2,939m)へ。そこから100人ゴンドラに乗り換えれば標高3,883mのグレッシャーパラダイスのクラインマッターホルン展望台に到着する。マッターホルン以外にもモンブランやユングフラウも見えるそうなのだが、私にはマッターホルン以外はどれがどの山か識別出来なかった。
ここも観光客はいたけど、ユングフラウ・ヨッホのようにグチャグチャではなかった。それよりもスキーヤー(地元スイス人と思われる)の方が多かった。徐々に身体が順応してきたのか、ここでは高山病の兆候は出なかった。
 
トロッケナーシュテックに戻りブッフェ形式の食堂でパスタ(いまひとつだった)を食べ、ロープウェイに乗り込んでシュバルツゼーで途中下車。ひと駅下ってみるつもりだったのだが、風が急に強くなってきてマッターホルンにも雲がかかり眺望悪し(コース図)。周辺を少しだけ歩いて戻ることにした(かみさんの様子もちょっと心配だったし)。
途中駅のフーリーで杖をついた足の不自由な老夫婦が私の乗っていたロープウェイに乗り込んできた。足の不自由な人でもコースさえ選べば散策出来るのが素晴らしい。ちなみにスイスのロープウェイやゴンドラ、登山電車などは往復チケット買えば何度でも途中下車&乗降が出来る。
グレッシャーパラダイスからホテルに戻ると、かみさんはまだ調子悪いという。あまり食欲も無く、リゾットなら食べられそうだというのでイタリア料理の居酒屋に行くことにする。Pizzeria Ristorante Molino、場所をメモって行ったのだが、お店が二階にあって分かりづらかった。味の方はマァマァ。スイス、特にツェルマットはイタリアに接しているためかイタリア料理店が多い。そして総じて味も良い。
その日の夜、トイレで目が覚めた。ヒョッとして、とベランダに出てみたら案の定、月も無く空には満天の星空が広がっていた。写真を撮ろうかとも思ったのだけど、寒くてギブアップ。
 
ツェルマット滞在3日目。今日は、ゴルナーグラートへ行く。すでにココ(ツェルマット)に来る途中で、電車の車掌さんから切符を買っていたので行かないわけにはいかない。かみさんの調子も大分戻って来たようなので、とりあえず終着駅まで行って、その後のコースは体調と相談しながら歩くことにした。
ホテルを出てゴルナーグラート鉄道駅まで歩く。駅はツェルマット駅の少し先にある。駅に着いて切符を取り出したらグリンデルワルドで使ったユングフラウ鉄道の切符だった。慌ててホテルに戻って正規の切符を持ってくる。予定していた列車に乗り遅れてしまい、約30分後の列車に乗車。
 
ゴルナーグラートはグリデルワルドのユングフラウ・ヨッホ展望台のような人混みはなかった。それでも一番の観光名所だから人は多いけれど。マッターホルンはもちろん、ゴルナー氷河やモンテローザなどが見渡せる。ドローンを持ってきて空中撮影している奴がいた。こちらのカメラに写り込んで非常に迷惑。
ゴルナーグラートからローデンボーデンまで行きそこで下車。リッフェル湖に映る逆さマッターホルンを期待して、リッフェルベルクまで歩く。今回のトレッキング旅はとにかくツイているなと感じていたけど、今回も最高の逆さマッターホルンを見ることが出来た。
無風状態でないとこのようには映ってくれない。雲に隠れていることが多い山頂も顔を出してくれて最高のシチュエーションだった。気分も良いのでもうひと駅先まで歩くことにした。目指すはリフェラルプ。ここには素敵なホテルもあり、ちょっとした施設もあって子供や老人も多かった。結婚式のカップルにも会った。
リフェラルプまでの道のりは、ひときわ花が咲き乱れていたように思う。リフェラルプの駅とホテルの間にも遊園地の鉄道のような線路があって、しばらく線路沿いを歩いていたらトコトコと歩くような速度で小さな列車が走ってきた。きっとホテルゲストの送迎用列車だろう。
ゴルナーグラート鉄道は、途中の景色も素晴らしい。ツェルマットの駅を出発したら右の車窓ならば町並みや遠くの山脈を見ながら、左なら山から流れ落ちる滝などを見ながら車窓の景色を楽しむことが出来る。
ツェルマットの町に戻り駅前まで来たら、少年少女達の合唱を聴くことが出来た。その前日は、先に書いた“日本人橋”でホルンの演奏もやっていた。観光客へのサービスなんだろうけど、いかにもスイスらしい。コーラスは右下に動画を埋め込んでおくけど、ホルンの方は川の音が大きくてお聴かせできるものではなくなっちゃので割愛します。その夜はホテル(ホテル・クローネ)のレストランでディナー。
さてスイス滞在最終日。午前中にチョロと散策しようかとも思ったけど、荷物のパッキングもあるし、この頃になると疲れも溜まってきていたのでパス。チューリッヒに向かう列車は10時45分発なので、チェックアウトを済ませタクシーを呼んでもらう。ツェルマットは一部の車を除き、全て電気自動車だ。ほかに馬車も数多く走ってる。タクシーでなくて馬車でのお迎えを頼めば良かったかな。
再び列車を乗り継ぎ(帰りは乗り換え1回だけだった)、チューリッヒに到着。慣れっこになったとは書いたけど、チューリッヒ駅で危うく下車しそうになった。空港に接続する駅はチューリッヒ空港駅(Zurich Flughafen)だ。最後の最後でチョンボするとこだった。

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